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スイスツアー

毎年夏の終わりロイヤルフィルはスイスのジュネーブ湖畔にあるMontreuxという街で開催される音楽祭に参加します。財政難で来年からは呼んでもらえないそうだけれど。。。

少し前まで私の中の主任指揮者のデゥトワに対する評価は前主任指揮者ガッティに比べると低いものだった。でも最近私はいろいろな意味で彼を見直している(エラソーな言い方ではあるが)。人間千差万別で性質や特質も違えがものごとへのアプローチの仕方も違う。デゥトワはデゥトワでその良さはある。そしてなんと言っても76歳であれだけ精力的に活動しているのはただ者ではない。彼の良さはリハーサルの仕方だとか完成させるまでのアプローチだとかいろいろあるのだが、全く関係ない角度から一つ、一流の良いソリストを連れてきてくれる、というのがある。彼にはそういった人との繋がりを上手に使い、また活かせる才能もあるのだろう。

今回のソリストの一人はマルタアルゲリッチ。ソリストとして演奏することが少なくなっている彼女の生のソロ演奏なんてもう見ることはないのかな、と思っていたのでちょっとびっくりしました。彼女の音楽、演奏は本当に尊い。信じられないレベルのテクニックというのは周知の事実だけれど、それ以上に彼女の音は特別な音をしている。音楽に心が向いている人はこういう音を出すのだろう。インターネットやipadやiphoneにまみれた世界とは違う世界の音。現代の音楽家はこういう音をほとんど出さない。すごく有名で一流と言われていている人でも多くはこういう音じゃない。現代の演奏家の音はもっとざわざわしている。彼らは何かがすごかったりすることもあってそれだけ聴いていると気づかないけれど、こうやって超越したものを聴くと他の音がいかに雑で荒っぽくて時に心がどこか違うところに向いているかわかる。

今の時代genuineに生きるのは難しい。心があっちを向いてみたりこっちに向いてみたり、あれが気になったりこれが気になったり。だからアルゲリッチみたいに、とどのつまり音楽のことしか考えていない人から出てくる音は尊いのだと思う。

でも、genuineに生きるのが難しいのは現代に限ったことではない、か。それが出来る人はどの時代でも稀なのかも。アルゲリッチから出てくる音楽は稀すぎてどこがどうなって、なんのコンビネーションでああいうものが出てくるのか本当に不思議である。

by Shinko_Hanaoka | 2013-09-13 04:25  

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