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マイスキー

前回のブログ投稿の後マイスキーについて私が思った事を知りたい、というメールをいただきました。

1月半ばのロイヤルフェスティバルホールでのコンサートのソリストはマイスキー。そして彼の演目はドボルザークチェロコンチェルト。昔日本で学んでいた頃、当時の師が”ドボルザークのコンチェルトのライブで唯一チェロの音が聞こえてくるのはロストロポービッチくらい”と話されていたのを憶えています。チェロはバイオリンのように音域も高くなく、またピアノのように大きな楽器でもなく、ピアノと一緒に弾けばピアノの音にかき消され、オケと弾けばオケにかき消され、演奏時にバランスをよく考えないと聞こえづらい楽器です。特にドボコンはオケの層が厚いですから。流行かまたはその長さのせいか(40分)、有名な割にコンサートで弾かれることは意外と少ないですが、ドボコンはやはり名曲だなと思います。

マイスキーは昔はおとぎ話の王子様のようなシャツ、今は三宅一生の衣装にツタンカーメンばりのネックレスがトレードマーク。毎回その演奏にはときどききらめく瞬間があるものの、最終的に大きな絵にならないため、残念に思うのが常。クラシック音楽はノリや雰囲気だけでは乗り切れません。細かい詰め、構成力、客観性に加えそれを超えた自由な息吹。いわゆる一流と呼ばれる演奏家達は音程の素晴らしさ、音のクオリティ、曲の物語性、躍動感にスピード、スリルに加えて繊細さ、これら全てをexquisiteなレベルで持ち合わせています。その点、マイスキーは雰囲気はあるものの他が、、、という感を否めないのが正直なところ。

彼の演奏は普段個人的には必ずしも好みではないものの、今回は舞台で彼が心底本気で雰囲気で弾き通している姿になんとなく好感を持ちました。音程はいささかあやふや、音は所々かすれ、難所は少々危なっかしかったりするのですが、そんなことをものともせずのめり込んで弾いている姿に”この人、音楽に対してすごく純粋にパッションを持っているんだな”と思い、なかなか良い演奏だったと思ったのです。昨今の演奏にはありとあらゆる無言のスタンダードがあり、そういうことが気になってしまい純粋なパッションメインで押し通せる人はなかなかいないものです。

演奏が終わった瞬間、となりで弾いていた普段は寛大なダニエルが”It wasn't great...was it?"とボソっと言ったので”そう? 私はなかなか良かったと思ったけどな!”と言ったら、彼は腑に落ちんという顔をしていました。人の物事に対する受け止め方、思う事とは千差万別だな、と思います。世の中の多くのことは正しいか間違っているかではなく、結局は単に好き、嫌いの世界なような気がします。

by shinko_hanaoka | 2011-03-10 00:41  

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