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ピンカスズッカーマン

昨夜は我がロイヤルフィルはロイヤルフェスティバルホールでズッカーマンをソリストに迎えベートーベン田園交響曲を含めたエルガーのヴァイオリンコンチェルトの夜でした。

このコンサートの一連は先週マンチェスターから始まり地方を周り、最終日が昨夜のロンドン。我々はズッカーマンのことをピンキーと呼ぶのですが、このピンキー今回が実は近年のロイヤルフィルとの共演でソリストのみとしての登場は初めて。彼は最近指揮者としても活動していてどちらかというと本人はヴァイオリン弾くより指揮の方がしたいらしい。が、指揮というのは当然ながらただ棒を振っていればよいというものではない。そして当たり前のことながらヴァイオリンを弾くことと指揮をすることは別物なのである。な、の、に、彼は指揮をしたいの。。。そして、ヴァイオリニストとしてはあんなに素晴らしいのに指揮をするといきなり音楽愛好家みたいになってしまうのである。これ、オケにとっては結構困りものなのだけれど、指揮させてあげないとヴァイオリン弾いてくれないのだから仕方なく(!)いつも指揮者兼ソリストとして来てもらうのである。それが、今回は堂々ソリストのみとして登場。我々もとても楽しみにしていました。

リハーサルでも最初の一音目から”おおぉっ”といういつもの血肉したたるジューシーな音。この人の音って100キロくらい先からも一発であ、ピンキーが弾いてる、ピンキーの音だ、とわかりそうなくらいそれは独特な音なのだ。が、途中からなんだかしつこすぎて半分飽き気味にならんわけでもない、くらいな調子でリハーサルは終わり地方公演も終わり、以前エルガーを一緒に弾いたナイジェルケネディの方がよくない?くらいなことを同僚と話しながらであったのだが、昨日のロンドン公演、やはりただ者ではありませんでした。多分この人ロンドンでは相当すごいだろうな、と予想はしていたものの本当に凄かった。

彼のすごさはここ一番というところでレベルを格段に上げてくるところ。彼はここ一番がどこだかよく知っていてそこで120%を出す術を知っている必殺仕事人である。腕一本で何十年にも渡って世界を渡り歩いて来た凄みである。そして、彼はそれを遊び心を持ちながら楽しくやるのである。これ、この人の素質だね。今年67歳になる今でも疲れ知らずで飛び回る彼のキャリアはこの性格的素質によるものも多いと思う。こういう人を見ていると才能って本当にすごいな、と思う。人間得意なことで好きなことをするとこんな素晴らしい人生&キャリアが待っている、という良い例ですな。もともと得意なことをやっているからいろいろな意味で一番近道ができてしかも性格的にも合っていることだと基本的に楽しい。だから80%も120%も自由自在。で、こういう人の80%は普通の人の100%をはるかに超えているので全く問題ない。おまけに120%出すときにでもこういう才能のある人は余力がある上に出してる120%なのである。そういう人の音楽は夢があって楽しいね。

マンチェスターでリハーサルの合間に私が耳栓しながら(オケはとにかくうるさいので隣でトランペットとか練習されると耳がおかしくなるから私は結構耳栓していることが多い)携帯電話をいじっていると後ろから聞き慣れたドヤ声が聞こえてくる。無視しているとその声はもっと近づいてきて”このホール何人入ると思う?”と大声で誰か言っているので”うっるさいなあ”と思いながら振り向くと、ピンキーが私に向かって何度も”このホール何人入ると思う?”と、聞いているのである。仕方なく(ピンキーはどこでもかしこでもヴァイオリンをガーガー弾くのと同じくらい誰彼かまわずしゃべりまくっている人物で、面倒なので(!?)普段は私はなるべく話しかけられないように目を合わさないようにしている!!)耳栓をはずし”はあ?”と言うと”だからあ、このホール何人入るの?”。テキトーに”知らない。6000人くらいじゃないの?”と答えると”ふーん。で、来るの2人とかだったりして。がはは”と向こうが嬉しそうに言うのでまたテキトーに”それってあなたと私?”と言うとその自虐的コメントがお気に召したようで一層嬉しそうにげらげら笑いながら、またガーガーヴァイオリンを弾き始めていました。そんなわけでこの人、全然気を使わなくてよい人です。一言で言うと機嫌の良い大きな赤ちゃんという感じ。

エルガーのヴァイオリンコンチェルトはかなりの大曲です。昨夜そんな大曲演奏中にたまたま私がふと顔を上げた瞬間に向こうもたまたまこちらに顔が向き目があった際、いつもの人懐っこい温かい顔でニコッと笑ってウィンクしてきたときには本当にびっくりした。これ、50分難曲の長丁場最終5分くらいの場所でそれも最後の山場、カデンツァに入る直前ですよ。普通そこら辺はすごい集中力がいるところで、おまけにもうそのあたり青息吐息か最後の力を振り絞って、くらいな勢いでもおかしくないはずなのにそこで子供みたいに笑ってウィンクだからね。ただモノじゃない。

最初から最後まで素晴らしい完成度、素晴らしい音楽、素晴らしいスピリットそしてグッと魂を掴む音。どこからも文句のつけようのない50分でした。


※このズッカーマンのエルガーのヴァイオリンコンチェルトは当日BBCラジオ3によりライブ録音放送されました。BBC Catch Upへグーグルから行きそのサイトのRadioをクリックすると番号が出てくるのでその3(Radio 3の意味)をさらにクリックすると画面にPerformance Miraclesというセクションが出てきます。それを押すとエルガーのヴァイオリンコンチェルトがみつかるはずで5/13まで聴くことができます。ご興味のある方はよろしければどうぞ。約50分とちょっと長いですが、圧巻です。
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by Shinko_Hanaoka | 2015-04-15 23:59  

春は移動、新学期の季節ですね。今日は去年の4月からお預かりしていた17歳の高校生の生徒さんのイギリス生活最後のレッスンでした。彼女はお父様のロンドン赴任に伴い去年の4月イギリスに来られて当初数年のイギリス生活を予想されていたのですが、急にお父様のお仕事がまた日本となり急遽帰国と相成りました。

初めてレッスンにいらしたときいかにも頼りない16歳で”大丈夫かいな”という気がしないでもなかった彼女が1年経った今、活き活きと自分の考えを話しチェロを弾いている。自分の強い意志で渡英したわけでもない中、成り行き上いろいろ問題に行き当たり決断しなければいけないことにも何度か直面し、そのときそのときを乗り越えてたった1年で人間ってこんなに変わるんだなあ。彼女の顔つきもチェロも1年前と全然違う。日本での先生から”厳しく基礎を教えてください”と託されたにもかかわらず実際私は彼女の現地校の寮生活等も含めほとんどチェロのヘルプが出来なかったけれど、人間変わるときは変わる。人の可能性、力はすごいなと思う。Inspiringです。

人って不思議。
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by Shinko_Hanaoka | 2015-04-02 02:32