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Oh my God...それからMatt

3月の終わりに引っ越してこのかた6週間新居ではまるでドラマの中にいるような日々を送っています。ころころ変わる状況、そして新たに次々と出てくるこの家の真実(?!)。私と、わけあって私とほぼ同時期に引っ越してきたジョンはこの家を”mad house”または”house of horror(恐怖の館!)”と呼んでいます。簡単に言うと、大家のフランチェスコは磨きのかかったcontrol freak(他人のことから何から全て自分のコントロール下におかないと気がすまない人)+どケチ+お金第一。パオロはそのフランチェスコにいじめられるがままなされるがまま、おまけに頭が半分おかしいんだか、子供なのか、とにかくわけがわからない。日中出入りするフランチェスコの息子リュークもわけのわからん信用ならんやつ。そんな中唯一まともな私とジョンは最近毎日午前中電話ミーティングまでするようになった始末。というのは彼は朝早くから会計士として普通のお務めで私は夜のお仕事(!)、なかなか家で会う機会がなく、おまけに家の中ではまともに話せないので、この家のことについては携帯メールでやりとりするか、彼の仕事先から午前中に電話がかかってきて話し合う、といういとも奇妙なシステムが成り立ちつつあります。私たちの到達した結論は一番のくせ者はフランチェスコ。極度のcontrol freakなため、普通それしたらまずいでしょ、というちょっと病気的行動もとります(無害ではあるが)。で、この人絶対なんか税金のこととかで怪しいことしてる! そして、我々の最も重要な結論はこの3ヶ月の契約が切れたら、とにかく逃げる!!! だいたいこんなこと考えてること自体まともじゃないよ、ですが。

なんていうところに、昨日の午後仕事に出かける前にランチをすませキッチンで後片付けをしているとドアのベルが。うちのドアはガラスの小窓がついていてお互い中の人も外の人も見えるようになっているのですが、ちょっとのぞいてみると郵便屋さんでもなければ、うちにはちょっと縁のなさそうな、バリッとした良いスーツをきた男の人が2人。私はといえばあらいものの途中で面倒くさかったのでゴム手袋をはめたままにらくちん部屋着、というかなりまぬけな格好で、なんか場違いな感じがしましたが、とりあえずドアを開けました。そして彼らの開口一番が”警察だがフランチェスコはいるか”。この6週間の奇妙な経験のせいですっかりこの家の全て、住人の全て(ジョンをぬかして)に信用を失っている私は”あー、やっぱり。。。!”と思い(何がやっぱりなんだか自分でもわからなかったですが、その瞬間そう思った)、返す私の開口一番は”Oh my God..."。私のびびり様をみて一人が”そんなに心配しないで。これが本当にヤバいことだったら僕ら朝の5時にくるから。。。!”と言い、それを聞いて妙に納得しましたが、それでも私がかなり”どうしよう。。。”という顔をしていたのでしょう。最後にも”大丈夫だから”という言葉を残して行きました。あいにくフランチェスコは不在で家にも私以外誰もいなかったので彼らはフランチェスコの携帯番号をとって立ち去りました。なんでも彼はどっかで写真をとっていたようで(写真は彼の趣味)、そのことについて質問だそうです。でもこの2人、ほんもののジェームスボンドばりで、鍛えぬかれたボディに仕立てのよい高級スーツ、てきぱきとした仕事ぶり、すごく格好よくて本当に全てが映画の中の007みたい。あんなにびびりながらも”うわー、あれって映画の中だけの世界かと思っていたけれど、実物も本当にこうなんだぁ”なんて思いました。人間ってヤバい瞬間におかれてもどこかで全然関係ない変なこと考える余裕みたいなものがあったりして変ですね。とにもかくにも昨晩遅く帰宅したら、フランチェスコはへらへらしていたので、まあどうってことなかったのかな、と少し安心しました。

外国にいると本当にいろいろなことがあります。。。って、この6週間のようなへんちくりんな経験はアメリカ生活2年、イギリス生活14年で初めてだけど。くわばら、くわばら。。。

さて話はかわってグラミー賞受賞サウンドエンジニアのマット。Y君と彼との3月、4月の映画音楽レコーディングのミクシングも全て終わり、出来上がりは上々。なんでもブラピの昔の映画”Seven years in Tibet"の音楽より(あの映画音楽ではヨーヨーマがチェロのソロを弾いています)良い出来だということで(ほんとかいな?ですが)、彼らも監督もかなりハッピーということでY君はもとより、マットからも電話がありました。

4月の2回目の録音のときは、彼らがシンガーとの録音もブルガリアでオケの録音も全てすませてきたあとで、それに私のソロをのっける形で録りました。そのときブルガリアの話がでて彼らが写真と一緒にいろいろな話をしてくれました。その際録音の仕方マイクの話なんかもしていて、夏の素晴らしい気候の中オーガニックフードでも食べながら山の中の修道院なんかでバッハとかチェロのソロで良い録音できたらいいね、なんていう話で盛り上がりました。その話はたまたまの流れでの話だったのですが、それは私の心に小さな灯をともしました。自分の心の中ではいつかこれを実現しよう、とその話が始まったとたんに静かに決まってしまったのです。私はマットのプロフェッショナリズムをとても信頼していてこういう人と仕事をしたら楽しいな、と思いました。今回の彼からの電話というのは実はそのことで、彼も私と一緒にCDを作りたい、とのこと。それで、実は私もあの話をどうやったら実現できるだろうと考えている、と告げました。それにはfundingが必要なわけですが、そんな話をしたら、君がそんなことを考える必要は全くない。それは君の仕事ではないし、君の実際の演奏を聴けば今までの君の蓄積が半端ではないというのも明らかで、君はとにかく演奏にフォーカスしてればよい、あとのことは自分たちでどうにかする、とのこと。ってそりゃあ、ありがたいお言葉だけど、実際どうするの?って思いますが(現実を知る者としては)、これが実際実現するかどうかは別にしても自分のやりたいことをサポートしてくれる人がいるというのは嬉しいこと。そして夢があるのって楽しい!そして私にとっての夢とは、純粋に私の望むことをするということ。それがサクセスするかどうかは二の次。そういうことが心に入ってきた瞬間に私にとってそれは夢ではなくなって楽しさがなくなっていきます。自分の心が楽しく、わくわくするようなこと、これからどんどんしていきますよ! That is, to me, the dream comes true.
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by Shinko_Hanaoka | 2009-05-10 10:26 | ロンドン  

アルゲリッチ

先週から今週にかけてはサバイバルモードでした。

21日(火)午前中パインウッドスタジオにて(007ボンド映画などが作られるところ)Y君と残りの映画音楽録音。
      午後ロンドンに急ぎ移動、午後リハーサル+夜2回のコンサート
22日(水)ロンドンにて一日中ロイヤルフィルのレコーディング
23日(木)22日に引き続き1日レコーディング
24日(金)ロンドンより北に車で4時間半(往復9時間弱!!)のHullにてコンサート。深夜2時帰宅。
25日(土)デュトワ(指揮)&アルゲリッチ(ソリスト)の日曜からのコンサートのため1日リハーサル(ロンドン)
26日(日)朝6時自宅出発、7時ヒースロー空港チェックイン、ダブリンへ。ダブリンにてデュトワ&アルゲリッチでコンサート
27日(月)朝6時30分ホテル出発ダブリン国際空港へ。お昼にロンドン着。ロイヤルフェスティバルホールへ直行。
      午後リハーサル&夜コンサート(デュトワ&アルゲリッチ)
28日(火)ロンドンから車で3時間のNottinghamにてデュトワ&ソリストが変わってジャンーフィリップ コラードでコンサート。深夜帰宅。

と、これがざっと1週間のスケジュールでした。こういうスケジュールに入るとサバイバルモードになり、自然に脳の中の必要でない電源は全て切るので意外とストレスではないのですが、肉体的にはやはりかなり疲労します。

さて、この中でのハイライトはなんと言ってもマルタアルゲリッチ。今期からロイヤルフィルの音楽監督はデュトワになりました。3年ほど前からデュトワに打診が始まりこの2年ほどはお互いの相性を試す意味でも何度か一緒に海外ツアーをしています。彼はものによっては良いものもありますが(フランスものなど)、ガッティのようにスペシャルなmagical momentを作れるタイプではあんまりないです。ただ、彼とアルゲリッチは元夫婦ということで、アルゲリッチがソリストとして招かれることがよくある、という極めて幸運な機会を提供してくれています。

特にダブリンでの彼女の演奏はセンセーショナル。一緒に弾きながら興奮して鳥肌が立ちました。誰にも手の届かないようなテクニック。彼女は現在68歳になりましたが、彼女のプロコフィエフはまるで最新の最高級スポーツカーのようなスピードと躍動感で駆け抜けます。そして言葉では言い尽くせないような彼女の音、ニュアンス。彼女の世界、持っている感覚はもう信じられないような夢の世界で、この世のものとは思えません。そういうこの世のものとは思えないことを普通にやっている彼女を眺めるのも大きな喜びで、彼女の弾いている姿をずっと見ているだけで飽きることがありません。このような才能はもう彼女自身の理解や認識もとっくに超えているところにあって、アンコールで彼女が一人弾き始めると会場は一瞬にして波打ったように静かになり、普段あちこちに散っている何千ものエネルギーがたった一点に注がれるそのパワーにも圧倒されます。でもその中で彼女は息をし、食べ、眠るという極めて普通なことをするのと同じようにピアノを弾いているだけ。ロイヤルフェスティバルホールのコンサートでは彼女が初めにゆっくり歩きながらステージに登場しただけで、すでに演奏後のような熱い、熱い拍手が皆から送られました。出てきた瞬間、子供が少しびっくりして半分嫌がるような表情をみせながら、それでもはにかんだ笑顔で”どうもありがとう”と小さく何度も言いながらピアノに近づいてゆきました。野生動物のような行動や仕草をする愛すべきマルタ。彼女のような人は世界の宝です。。。

追伸 Nottinghamでのソリストも悪くなかったですが、何しろ彼の弾いたラベルも前回私たちが共演したのが2年ほど前のアルゲリッチ。2楽章の彼女の夢のような世界があまりにも素晴らしすぎて、それに比べたらなんとも下界の音楽でした。。。
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by Shinko_Hanaoka | 2009-05-02 08:39 | ロンドン  

パオロごめんね

ワタクシ、3週間ほど前に住み慣れたベーズウォーターを引き払いマリルボーン地区に引っ越しました。私は断然ハイドパーク派で英国に流れ着いてからこの14年、ハイドパーク周辺以外には住んだことがないのですが(1回だけ何を思ったか友達に誘われてずいぶん中心地から離れたところに住んだことがありますが、死ぬほどいやで1ヶ月もたたない間にそこを引き払いまたハイドパークの真ん前に戻ったのでありました。。。)、今回は何故か不本意ながらリージェンツパークの近くです。場所はロンドンのど真ん中もど真ん中、オックスフォードサーカスにもボンドストリートにも徒歩で行ける便利なところで、通りに駐車してある車はロールスロイスなどの高級車ばかりポルシェあたりが一番たいしたことない車、みたいなかなり感じの悪い(!?)ところですが、やっぱり私はケンジントン地区のほうが落ち着いていてしっくりきます。当然しがないクラッシックミュージシャンである私はひとりでこんな所に住めるはずもなく、2人のイタリア人と3階建てのミューズハウスをシェアすることになりました(基本的に一人ワンフロア、みたいな感じ)。

日本ではあまりシェアというのは聞きませんが、こちらではよくある住宅状況です。シェアというのは住人同士の常識観念がほぼ一緒でお互いのライススタイルが似ていたり、もしくはライフスタイル自体が噛み合ず故にすれ違いだったりすると上手くいきますが、そうでなかったら家庭生活はストレスの連続と化します。引っ越して2週間私は皆の生活ぶりや人柄、そして家自体の構造や癖などを観察した結果どうしても気になることがいくつか出てきていて、数日前からとうとうその改革に乗り出すことにしました。

住人のひとりであるゲイのパオロ。元有名DJで目下弁護士になるため猛勉強中42歳。むちゃくちゃアーティスティックで話しをしているとさすが一つの道を究めたことのある人(DJとして)、感心すること面白いことが多いのですが、いざ一緒に生活するとなると”ちょっと待ったー!!”ということをしでかす張本人です。
ある日夜中の12時すぎからフルコースのようなディナーをクッキングしはじめた彼。家の中はその匂いで一杯。特に私の部屋のある最上階は自分の部屋の中で料理してるのかと思うほどで私は当然怒り心頭。翌日は早朝から仕事で夜中まで帰ってこなかったので置き手紙を残しておきました。そして次の日帰宅後ちょうどキッチンにパオロがうろうろしていたので昨夜のことからその他いろいろとクリアにする良い機会、と思い話をすることにしました。

パオロ、ここまで聞くとなんて気ずかいのない失礼なヤツ、と思うかもしれません。でも実際はその逆ですごく礼儀正しくて純粋な心をもつ人だ、ということが一緒に生活しているとわかるのですが、なんとしても何故か私の方からするとどこかいつもポイントが違っていてお互いどっかがずれてるんじゃないか、とはずっと思っていたのです。そしてその晩よくよく話を聞いてみると、やはり彼は彼なりにものすごく気を使っていて前の晩の深夜クッキング事件にも彼の気ずかい故の理由があったことがわかりました。ここで私は改めてコミュニケーションの大切さを感じたわけですが、勿論なんの説明もなく、あうんの呼吸で全てが理解できればどんな関係もこれほどラクなことはありません。でも、それがどんなに心を許した夫婦の間であっても恋人同士であっても友人同士、隣人同士、または国々同士であってもその時々に応じて適切なコミュニケーションをとるということが共存の中で良い関係を結ぶ大きなキーとなります。と、そんなことは皆どこかでわかっていても実際そういうことが下手だったり、やり方がわからなかったり、もしくは状況に甘んじて基本的な努力を怠ったりすることがいかに多いことか、です。で、その結果、その関係はなんらかの形で上手く回らなくなるわけです。

パオロは私が思っていた以上にすごく一生懸命で忍耐強く、心の清い人でした。そしてこの夜長トークのお陰でまた一つ二つ新しくパオロの歴史や一面も知りました。パオロ、知らないでいろいろ言ってごめんね。。。でも、アナタも私の事情はよくわかってくれたみたいだからその辺はよろしくね!
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by Shinko_Hanaoka | 2009-04-11 23:17 | ロンドン  

レコーディング

 今日はロイヤルフィルとは別の仕事で映画音楽の録音がありました。昔のハウスメートが映画音楽作曲家で彼は私の演奏をとてもかってくれていて、彼の録音にチェロのソロが必要だとこうして必ず連絡してきてくれます。自分の力を信じてくれる人がいるということはありがたいことです。

 今日はホラー映画の音楽でしたがマイクなどのセッティングをしているところにエンジニアのマットなる人物が現れました。彼はエンジニアとしてグラミー賞を受賞しているその道ではトップクラスの人ということですが、今回の映画では私の元ハウスメートY君は彼と組んでいるらしくこのマットが全てのミクシングをするそうです。この日の録音のために数日前高価なマイクを2つ購入したそうでそのマイクは1950年代製だそうですが、現代のマイクより全然音が良いそうです。

 今日の録音は私のチェロ一本だけということでセッティングなどは彼に頼むには及ばずで、Y君のアシスタントが担当しました。でもこのマット、いてもたってもいられなかったようでわざわざ車で1時間もかけてチェックしにきてくれました。彼は、私がまだロイヤルフィルに入る以前、時間と自由がたっぷりあった頃にY君と一緒に録音した映画音楽用サンプルを聴いて私のチェロのファンになったそうです。私に会うの半分、マイクの調子を確かめるの半分で別の仕事で自分もほとんど缶ずめ状態にもかかわらず抜け出してたった5分のために来てくれました。この人は全部自分の耳だけで何ヘルツか聴き分けることのできる驚くべきプロフェッショナルです。この5分間の間にさっと私の音をチェックしながらY君にエンジニアとして適切なアドバイスを残していきました。

 その後も録音中に2度もY君の携帯にメールが入り、サウンドのエッジをとった方がいいからどこそこの機械のどこそこをオフにしたらどうか、とか、3本目のマイクをオリジナルの場所から50センチほどバックしたらもっと低音のカバーがよくなるはずだ、とかもう真剣そのものなんですね。私は今日はこのマットの送り出すグッドエネルギーにとてもインスパイヤーされました。もう自分の仕事となったらベストを求めて、いてもたってもいられないような真剣さ、純粋さ。仕事の本随とはこういうところにあることを改めて思いました。そしてそういう態度と気持ちを持ってする仕事の楽しいこと。そしてそういう風に仕事をする人たちの美しいこと。そしてその良いエネルギーがどんどん伝染して相乗効果を生み出す面白さ。考えてみれば”仕事”とは本来そうやってひたむきに自分の能力を最大限に活かそうとする行為のはずです。それがたとえ音楽家であろうとクリーナーであろうと郵便局員であろうと政治家であろうと。今日は私もチェリストとして、今現在自分のもてる技術と経験を最大限に使って一生懸命弾いてきました。だから今日はすっごく楽しかったです。それが、たった一つの音を長くのばすだけのところであっても。。。!
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by Shinko_Hanaoka | 2009-03-30 12:16 | ロンドン